あーとブログ

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女たちの生々しい呻き(うめき)〜ニブロール ダンス公演『悲劇のヒロイン』〜

東京・横浜では、ダンス公演が盛んに行われています。
以前住んでいた関西も都会でしたが、肌感でも公演やっている数は関東が明らかに多いなと思います。舞台ごとに席に置いてある挟み込みチラシが、
雑誌一冊分くらいあるのに驚きました。

 

その中で勧められたのは、ダンスカンパニー・ニブロールのダンス公演
ほぼ事前情報なしに見たのですが……鳥肌がたちました。
こちらの心に迫ってくる感覚。
これがあるから、やっぱ芸術っておもしろいなーって思って
やめられないんですよね。
この記事では、ニブロールの『悲劇のヒロイン』について概要と所感を書きます!

 

Nibroll『悲劇のヒロイン』

ニブロールとは?
・『悲劇のヒロイン』概要
・所 感
・参考資料

ニブロール 悲劇のヒロイン

 

Nibrollニブロール)とは?
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この作品は、2017年に神戸市長田区で開催された「下町芸術祭」で公演した小作品が元になっています。当初2人の女性で演じてられていたものが、どんどん形を変え今作に至ったようです(公式パンフレットより)
出演は、30〜40代の女性5人。
舞台は、通常の奥の舞台と、大きく観客に三方向囲まれるようにせり出た構成となっています。

悲劇のヒロイン入口

ダンス公演という枠組みで、ストーリーがあるわけではありませんが、それぞれ女性の回想話では具体的な話もちらほら出てきます。
女性一人ひとりが、生きていく上での苦しみや後悔などを話たり、叫んだりしていきます。

公演日:2019年2月7日(木)〜10日(日)6公演
場 所:東京芸術劇場 シアターウエス
チケット:一般前売3,500円・当日3,800円 U25前売2,500円・当日2,800円
出演:笠木泉、川田希、光瀬指絵、皆戸麻衣、望月めいり
振付・演出:矢内原 美邦
映像・美術:高橋 啓祐
音楽:SKANK/スカンク
照明:岡野昌代(PICOLER)

 

所 感
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はじめ、お母さんに当てた手紙を読む幼少時代(?)のシーンから始まりました。
次には、マッチ売りの少女の話に。
脈絡はないれど、面接に行って他の子と自分を比較するような話が、各女性から語られます。
最初に登場した時、20代かな?と思った女性たちも、よく見ると30〜40代。この年齢がよりセリフの生々しさ増加させている気がしました。

 

次シーンでは、モップで床をひらすら掃除する彼女たち。
セリフをいうごとに倒れ、起き上がります。

「失敗したって誰も手は差し伸べてくれなかった」

「ルックスがねえ」「年齢がねえ」「性格がねえ」「時代が」「社会が」
………
と、苦しみの原因?の次々に50個ぐらい次々に叫んでいくシーンが印象的でした。

 

悲劇のヒロイン舞台

懺悔室という、電話ボックスのサイズの部屋が4つ舞台上に出てきて、
4人それぞれ部屋に入り、本音を叫ぶというシーンもありました。
「本当が私があそこに立つはずだった」
懺悔室に入らず、ずっとマッチを投げ続けている一番若い役者の子の方を見て叫んでいます。

 

最後のシーン。
懺悔室を出てから、5人全員がマッチを点けて一言、そして消すというのを、
客席前の舞台で繰り返します。

「できないのは私のせいじゃないと思う」

「つまんないのは私のせいじゃないでしょう」

「夜眠れないのは私のせいじゃないよね?」

「お金がたまらないのは私のせいじゃない」

 

こういった「……なのは、私のせいじゃないよね?」という
セリフがまた50ほどは繰り返されました。
その言い方が、変に明るさを持っていたり、怒りを含んでいたり、
泣くような言い方だったり。
舞台の前方に出てきているので、距離的にも近く、見ていて、心がえぐられるような感覚になりました。

 

なんでここまで覚えてるかと言ったら、パンフレットに台本がついてるんです。でも、台本を読んでいても、実際のあの鬼気迫ってくる感じは公演を見ないとわからないなぁと痛感。
台本の最後に、ト書き(セリフではない演出など指示の箇所)に、以下の記載がありました。

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時にこのなんでもない、どうでもいいことは誰かの心に届くかもしれない、いや、そんなこと起こるはずがない、拒絶されるかもしれない、そんなふうに思いながら一歩を踏み出す、それでも世界が違ったとしても、きっと私たちは近いところにいるのだから、まぁいいじゃないかそう思い歩く、そうして、ゆっくりと積極的に手をあげてゆく、悲劇のヒロインだからね。手をあげて生きていることを確かめる

音と映像が響く

この手に捕まるんだ。汚れた手を洗う夢というのはね、問題やトラブルが解決して、幸運になることを意味しています。積極的な一日を!
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公演は、ネガティブなセリフで終わっていきますが、
台本ではどこか、明るい兆しが見えるような書き方がされています。
「絶対うまくいく!」のような無責任な励ましではなく、
彼女たちの叫びが届かないとしても、伝え続けるしかない、
そうしたら、いつか何か変わるかもれしれない。
そんな、ひたむきに生きる「悲劇のヒロイン」へのエールなのかなと思いました。

 

私も、まだ20代ではありますが、
自らの今までの体験や、普段考えている将来への漠然とした不安が思い起こされました。
ただ「かわいそう」と他人事として見れない胸の苦しさ、
それと共に「自分だけじゃない」という微かな喜びが公演後に残り続けています。

 

って、あれ?
踊ってたっけ?

 

そう、ダンス公演といっても、ほんとに団体・公演によってダンスの概念が全然違うんですね。
『悲劇のヒロイン』は、ストーリーがなく、ダンスを踊っていたというよりも、日常の動きを少し大きくしたような感じの印象を受けました。
舞台に出ている5人に中には、ダンス専門でやってきた人もいればそうでない人もいます。
でも、伝えたいことが優先事項であって、ダンスや演劇、美術などと言った括り・形式は重要ではないのかもしれません。

 

とにかく、今回行けてよかったです。

また次回作などもチェックしたいと思います。

 

 


参考資料
・『悲劇のヒロイン』当日配布パンフレット
Nibroll ウェブサイト
http://www.nibroll.com/higeki-no-heroine.html
(2019/3/24閲覧)